Novel 24-7 26-30

26.Re: ジェミニ #28-01-d

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27.Re: ジェミニ #11-06-c

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28.Re: ジェミニ #30-11-b

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29.都内 インターネットカフェ



 親父が姿を消した時、俺は18だった。高校3年の夏、甲子園の予選が終わって引退して、私立大学への入学が決まった矢先のことだった。学校から帰宅したら富田さんがソファーに座って待っていた。お袋の顔は青ざめて、不安をあらわにしていた。何かが起こったんだと直感した。


 
富田さんは一枚のメモを見せてくれた。「私は行きたくて行くんじゃない」と書かれたその字は、まぎれもなく親父のものだった。親父は研究者だったから一週間やそこら家に帰らないことなんて珍しくもなかったけれど、まさかこんな紙切れ1枚残して無断欠勤していたなんてな……。


 
お袋は警察に捜索願を出すことを提案したが、富田さんがそれを制した。その日の新聞記事を見て、国家の自殺防止プロジェクトや研究所のICチップが関わっているんじゃないかとにらんだから、捜索願を出しても無駄足に終わるだろうという見解だった。


 
その日から俺は親父を探し始めた。もう七年になるだろうか。親父が好きだった野球の審判をしながら、進路を変更してフリージャーナリストを目指した。親父の直接の上司だった丸山やNSAを片っ端から探って、この件の裏にある「黒い流れ」を自分の手で暴こうとした。


 
今、俺は数冊の冊子に目を通している。とても一日では読み切れない内容だが、凶悪犯罪圧殺プロジェクトの裏がある程度理解できた。あそこはセクションRRと呼ばれている。更生施設ではあるが未だ実験段階。計画書の通りなら、金髪のあいつは恐らく無事に普通の生活へ。NSAから派遣された監視者はあの年長の女だろうな。


 あの
予期せぬ自殺から一夜明けて、俺たちの目の前に再びライフルの男が現れた。ハンドガンで撃たれて目が覚めた後、俺は色々と尋問された。計器が異常な反応を示していたなんて知ったことじゃない。俺はただ親父を探しに行っただけで、更生施設内にいないことがわかった以上、あまり素性を知られたくはなかった。だから、調査官と自分の間にあった机を思いっきり蹴って腹にぶつけてやった。ヤツの動きが止まった間隙を衝いて、俺は部屋から飛び出した。


 
個室の外は予想以上に広く、けたたましい警報音が鳴り響いていた。一瞬焦って窓から飛び降りようかと思ったが、そこが何階かもわからない。とにかく走りに走った。が、警備員がわき出るように集まってくる。やむなく俺は手近な部屋に身を隠すことにした。


 
偶然だった。こんな奇跡が起こるなんて考えもしなかった。たくさんの機材に埋もれた人影が立ちあがってこっちを見た。親父……? 頬は痩せ、目の下は落ち窪んでどす黒く、とても年老いて見えた。だけど、俺は親父の面影を忘れていなかった。逃げようと言った。だけど、親父の足には鎖が。


 
親父は俺に冊子を渡し、ある方向を指さした。そっちへ逃げろってことか? 親父と一緒じゃなきゃ意味がない。何度もそう言った。けれど、親父は首を横に振り続けた。たくさんの足音が迫ってくる。時間がなかった。


 
俺が部屋を出ようとすると、親父は三本の指を立ててこっちに向けた。親指、人差し指、中指、頑張れのサイン。小さい頃、よく親父とキャッチボールをしたことを思い出した。どんなに下手糞でも、親父は笑いながらいつもそうやって励ましてくれた。がんばれ! 逃げるしかなかった。親父の指差した方向には非常階段があった。

30.国立防衛学院 高等部 理事長室


「失礼します。」

「向井くん、待ってたよ。」

「遅くなって申し訳ありませんでした。」

「さっそくだが中の様子を話してもらえるかな。」

「はい。」

「木ノ下律子の様子はどうだった?」

「彼女は終始傍観的態度を取っていました。高みから見物するような視線で、保護者を更生に導くような行動は見られませんでした。」

「木ノ下もだいぶ変わってしまったということだな。」

「はい、恐らくですがそのように思います。プライドと上昇志向が強そうな彼女ですから、なかなか思い通りにいかないプロジェクトにうんざりしていたのでしょう。だから、保護者を更生に導くという本来の任務を忘れ、結果、一人の自殺者を出してしまった。罰を恐れたためか、彼女は蘇生措置も事後検証も行わず、立ち尽くしたままでした。」

「そうか。やはり監視を付けて正解だったな。木ノ下は聡明だが思慮深くはない。するするとのぼりつめた分、逆境にも弱い。そろそろ限界だと思っていたところだよ。」

「木ノ下さんはこれからどうなるのですか?」
「とりあえず、自宅で謹慎させている。秘書が私からの封筒を渡したはずだ。副局長解任を示唆した内容だ。」

「そうですか。」

「木ノ下に自覚がない以上やむを得ないことだ。それでは、保護者について聞かせてもらおうか。まずは岡田祐介について。彼が中に入った時、計器に例のない乱れがあったようだが。」

「計器に関してはわかりませんが、中ではごく普通に対応していました。異質な状況下であっても、自らそれを乗り切ろうとするタイプです。」
「岡田が中にいた時、計器は終始通常レベルを示していたんだよ。普通の保護者ならば少なからずストレスレベルが上昇するはずだが、これまでとは全く逆の反応だった。もしかしたら彼は保護者ではないんじゃないかと思ってね。こちらに戻したあと尋問させたんだよ。」

「それで、岡田さんはどうなったんですか?」

「逃げたよ。もちろん警備は総動員したが、あの広い局内であっさりと非常階段を見つけられた。今思えば岡田開発部長と接触したのかもしれない。息子が一人いるといっていたからな。もしかしたら……としか言えないが。」

「父親を探していたということですか? 彼は中で暇を見つけては砂漠を歩きまわっていました。皆、食料と水を探しているものだとばかり思っていましたが、それならば説明がつきます。憶測に過ぎませんが。」

「ああ、憶測に過ぎない。こればかりは本人に直接聞いてみないとわからないからな。岡田も現時点では一国民に過ぎん。用心に越したことはないが、生体反応が異常レベルを示さない限り、私生活に立ち入ることはできない。話を変えよう。萩原恭平について。」

「はい。彼は中に入った後すぐに順応できたわけではありませんが、食料と水の見つけ方がわかった時から笑顔を見せ始めました。記憶の混濁が落ち着いたのか、一瞬考え込むような影もありましたが、基本的にはとても楽しそうで、施設内での生活から何かを学び取った雰囲気が感じられました。家にこもるタイプの人間にとって、この方法は非常に効果的であると思います。」

「なるほど。気質や性格を考慮すべきだということか。」

「はい。宮崎カレンについても同様のことが言えると思います。彼女は慣れない土地で夫や娘のために……というよりは、自分の居場所を失わないように無我夢中で生きてきた人間です。幼いころに大きく環境が変わったことで、ストレス耐性もあまり高くありません。元から無理をしていた人間に重ねて無理をさせた結果、ストレスレベルが上昇したのではないですか?」

「ああ、その通りだ。宮崎に関しては未遂行動時よりも状態が悪かった。個別性を尊重した保護をできるといいが、それぞれの成育歴や生活状況までは事前に把握しきれない。難しいものだな……」

「そうですね……私がもっと早くに察していれば……」

「君に責任はないよ、向井くん。君の任務は第一に木ノ下律子の監視だったのだからね。こうして他の保護者の情報について聞かせてもらえること自体が大きな付加価値だ。」

「恐れ入ります。」

「それでは、話題を戻して岡崎貴之について。」

「はい。今回、4度目の実験は彼によって壊されたとも言えます。最初は木ノ下さんと同じように傍観的態度で、最低限の活動にしか参加しませんでした。しかし、萩原が無事に更生を終えた後、岡崎はその場にいた人間に錯覚を覚えさせるような一言をつぶやき、その結果として宮崎カレンの自殺を招いた可能性が高いと考えられます。ある程度ルールを知っている人間が混ざると、その言動から他の保護者の混乱を招くことが証明されました。」

「そうか。個別性と再犯未遂防止が当面の課題だな。ありがとう。結果の詳細はレポートにまとめて後日提出してくれ。」

「はい。……あっ、滝沢理事長。ひとつ質問してもよろしいですか?」

「ああ、構わんよ。」

「なぜ私をここに入学させたのですか? 本来ならば法的な罰を受けなければならなかったのに。今回のような重要任務に当たらせたことにも、何か特別な理由があるのですか?」

「そのことか。いずれは聞かれると思っていたよ。簡単に言えば、君に適性があると私が判断したからだ。」

「適正というのは?」

「それは――」