Novel 24-7 21-25

21.国立科学研究所 所長室


「富田さん、親父が見つかりました。」

「本当か?」

「はい。私はNSAに――」

「あぁ、聞いている。丸山に悩み相談もちかけて泥酔させたらしいな。」

「……。」

「そんな顔するな。血相変えた丸山がここに駆け込んできたんだよ。」

「そうでしたか。酩酊させて青酸カリでも打とうと思っていたんですが。」

「できなかったようだな。」

「はい。後頭部に釘を打たれたような衝撃を感じて、その場に倒れこみました。」

「その後、どうなった?」

「話せば長くなります。」

「構わんよ。あれは完全に丸山の逸脱行為だ。ほぼ間違いなくNSAから金を受け取っていたんだろう。」

「親父のICチップは、当時まだ人体に埋め込んでいいものではなかった。」

「そうだな……。機能はほぼ完璧だったが、特に疾病治療薬との兼ね合いについては所内でも疑問視されていた。年齢、性別、免疫、遺伝、ストレス耐性、肉体的・精神的発育。それぞれに個人差があって、測定結果を単純に捉えることは困難だった。」

「なぜあなたは所長として丸山さんを止めなかったんですか。あれを公にしていいはずがないじゃないですか。」

「申し訳ないとしか言えない。ここからは私の言い訳になる。あの会見が開かれた時、丸山は所内にいたんだよ。プロジェクトリーダーとして、今後ICチップをどのように開発・運用していくかを話し合っていた。私も同席していたからね、これは確かな話だ。」

「どういうことですか?」

「丸山には双子の弟がいたんだよ。本当に驚いた。顔も同じ。背格好も同じ。その弟が会議に出席している数時間の間に、丸山は『完璧なICチップ』を公表したんだよ。」

「弟に何のメリットがあるんです?」

「さっきも言っただろう。金だよ、金。気付けなかった私の責任だ。」

「そんな……。なぜあの人をここから追い出さなかったんですか。許されることじゃない!」

「その通り、許されることではない。だが、生体注入開始から数年後、ICチップを犯罪防止目的で利用するという噂が耳に入り、さらに数年後には岡田研究員――君の父親が失踪した。あの会見の日からずっと、私は研究の裏に何か黒い流れがあることを感じていてね。少なくとも真実の一部を知る丸山を手放すことはできなかったんだよ。むろん、簡単には口を割らなかったが。」

「そうでしたか……。」

「ああ。しかし、大人になった君が何らかの疑問を持って行動を起こすことは、漠然と目に見えていたよ。」

「なぜです? 俺が親父の息子だからですか?」

「まあそれもあるが、もともと君は公明正大な性格だ。……ジャッジメント。ルールを守らない子供を注意するのは、きっと君だと思っていた。」

「そうですね。それが俺の仕事ですから。」

22.東京都内 アミューズメント施設

「萩原君、あちらで機械トラブル!」

「はい、今行きます!」

「萩原君、段ボール運ぶの手伝って!」

「はい、今行きます!」

「萩原君、休憩入っていいよ!」

「はい、今行きます! ……じゃなかったな。お先に失礼します!」


 コンビニとかファミレスとか色々考えたけど、結局ゲーセンの店員に決めた。やっぱ性に合ってるっていうか、落ち着くっていうか。働くことがこんなに楽しいなんて、昔のオレじゃ想像もできなかった。昔っつっても、たったの2週間だけど。


 友だち燃やそうとして、気を失って、砂漠に連れていかれて、穴掘って、気を失って、目が覚めたら自分の部屋で寝てた。いつもなら、帰ってきたら即オンゲーなんだけど、なぜかパソコンには全く触らず外に出た。


 向かった場所はドラッグストア。ターンカラーを買って髪を黒く染めた。なんとなくコンビニに置いてあった無料の求人情報誌を眺めた。で、今に至る。


 なんで男のオレがぬいぐるみのフロアに配属されたのかいまいちわかんねぇけど、何やっても楽しい。とにかく楽しい。生きてるって感じがする。きっと、あそこに行ったからなんだろうな。他の5人はどうなったんだろう。もう出てきてるよな?


 やりたいことが見つかったわけじゃないけど、なんとなく将来のことを考えるようになった。今はバイトでいいけど、今までおやじにもおふくろにも相当迷惑かけてた。オレが働くって言ったら、おふくろは泣いてた。すげぇ悪いことしたんだって反省した。人生やり直したくて通信制の高校に入り直すことも決めた。とりあえず、大検に受かることが目標。


 それから、近いうちにあいつに謝りに行く。誰かのおかげでオレは親友を殺さずに済んだ。あの時は理性がぶっ飛んでたからホントに感謝してる。だけど、やろうとしたことには変わりない。許してもらえるとも思ってない。オレがあいつの立場だったら、ごめんじゃ済まねぇよ。だけど筋は通さないとな。けじめなんだ。前に進むために頭下げに行く。

23.2035年10月26日 雨

247d

24.東京都内 職業安定所


 247番。電光掲示板におれの番号が表示された。この8年間、何度ここへ来ただろうか。あんなことをしでかしたのに出入り禁止になってないってことは……。おれたち世代は国から見捨てられたとばかり思っていたが、そうでもなかったってことだな……。


 こっちに戻ってきてから、自殺した女のことばかり思い出す。死んだら楽になれると思ったことは数知れない。だけど、思うことと実行することは別であって、結局何もできないままに生き延びてる。自殺する勇気とエネルギー……。ある意味では尊敬に値するものかもしれないな。


 思う……実行する……。おれは今まで何をしてきた? 職安では自分の希望を伝えた。職場ではやれと言われた仕事をやった。それ以上でも、それ以下でもない。それは実行なのか? 今朝のことが脳裏をよぎる。



「部長、ご無沙汰しております。その節は――」

「何しに来たんだ!」

「あの……。私はただ――」

「解雇された腹いせならさっさと出て行け!」

「ですから、私はただお詫びを――」

「あのままナイフが刺さっていたら死んでいたかもしれないんだぞ!」

「……申し訳ありませんでした。失礼致します。」



 
おれは謝罪すらまともにできなかったのか……。しっかりしろよ……。職がないと言われたら、どこでもいいからと泣きつく。解雇すると言われたら、抗わずに従う。怒りや悲しみがオーバーフローしたら、簡単に刃を向ける。何やってんだよ……。


 あの女が何をしたのかはわからないが、最後の最後に自分の人生をコントロールしたんだな……。おれはただ流されるだけだった。申し訳ない……。本当に……申し訳ない……。人生を変えてしまって……。不用意な一言で普通の生活に戻れるチャンスを不意にしてしまって……。最低だ……。


 「……あの、どうかしましたか?」


 えっ?! あぁ……ここは職安だったな……。どうしたらいいのか全くわからない。罪悪感と不甲斐なさで身の置き所が無い。


 「岡崎さんは以前にもここにいらっしゃいましたよね?」


 この担当者……何を考えている……?


 「私たちのことを信頼していない求職者の方がたくさんいらっしゃいますが、お悩みやご希望などを出来る限り正直にお話しになってください。」


 なぜだ……。


 「職業紹介や職業指導は政府の義務なんですよ。お話しいただければ、それに沿って最良のサポートに尽くしますので。」


 今がチャンスなのか? 自分で自分の人生をコントロールする。話すことが第一歩ならそれをやらなければまた同じ結果を繰り返す。だけど、怖い……。足が勝手に震えだす……。これまでの経緯を説明したらそれこそ……。


 ……いや、もうやめよう。おれは2度も間違いを犯したんだ。そして、3度目に他人の人生を大きく狂わせた。失うものなんてないのに、何を躊躇しているんだ。


……………………
…………………………
………………………………


 
長い長い時間が経過した。……と思ったが、時計の長針が一周もしていないことに気付いた。他人とまともに会話をしたのは久しぶりのことだった。


 
『NPO法人・こころのカフェ』

 自死遺族の方をサポートしていただける職員を募集しております。


 
ボランティアか。考えもしなかった。給料は安いが、今のおれにふさわしい仕事ではないかと勧められた。自分でもそう思う。償いになるなんて到底思っていないが、何かに導かれてなるようになった、そんな感覚を覚える自分が今ここにいる。

25.Re: ジェミニ #00-12-a

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