Novel 24-7 16-20

16.国家安全保障局 情報総監部 生体信号受信室


「午前11時38分、セクションRRより人口ホルモンの反応あり。」

「コロニスか?」

「はい。向井あかねがピアスを飲み込んだものかと。」

「ただちに上に連絡しろ。」

「了解しました。」


「こちら受信室。先ほど、コロニスの反応を確認しました。」

「こちら本部。局長に繋ぎます。」


「滝沢だ。昨日発生した生体反応消失との関係は?」

「早急に分析を試みましたが、送受信共に装置の異常は全く見られませんでした。」

「ということは?」

「現状ではICチップの誤作動、もしくは保護者の死亡が考えられます。」

「了解した。残りは4名ないし5名で間違いないか?」

「はい。間違いありません。」

「ただちに輸送車を向かわせる。」

「よろしくお願い致します。」

17.国家安全保障局 調査研究部 鑑定室


「あなたが拘束されたのは何度目か覚えていますか?」

「あぁ……確か2度目だな。」

「そうです。1度目に拘束された理由を覚えていますか?」

「仕事が見つからなくて、いらいらいしていた。」

「もう少し具体的にお願いします。」

「ポケットに入れていた小型のナイフで職業紹介所の社員を刺そうとした。」

「そうです。それでは2度目に拘束された理由を覚えていますか?」

「いや、覚えていない。」

「あなたは勤めていた工場の人事部長に全く同じことをしました。」

「そんな気もするな。」

「はい。派遣労働者の人員削減による解雇を言い渡された直後のことでした。」

「そうか……。おれは一度目で学ばなかったのか……。」

18.国家安全保障局 調査研究部 聴取室


「君が拘束された時、計器が過去に例のない反応を示していたことについて心当たりはあるか?」

「いや。」

「我々は今後の調査・研究のために、君がどのような方法であそこに入り込んだのかを説明してもらいたい。」

「入り込んだ?」

「ん?」

「そういう言い方をするってことは、おおよその見当はついてるんだろ?」

「……。」

「御託はいらない。時間の無駄だ。」

「そうか。それでは質問を変えよう。君の目的は、ぐぁっ!」

19.国立防衛学院 高等部 宿舎


 区立二ツ木小学校 作文発表会 「わたしのゆめ」


 
わたしのゆめは、せいじかになることです。この前、お父さんとお母さんから聞きました。人をころしそうな人は、ころしてしまうまえに、ころされてしまうそうです。しんぶんに書いてあったそうです。


 わたしはそれを聞いて、とてもこわくなりました。もしも、かぞくがいなくなったらとてもこまるし、さびしいからです。お父さんも、お母さんも、ほかのおとなの人も、みんなこわい、こわいと言っていました。


 わたしは人をころしていない人がころされるのは、まちがっていると思います。友だちとけんかをしたらあやまらなければいけません。だけど、それはけんかをしたからです。わたしも友だちも、悲しくなるからです。だから、まだけんかをしていないのにあやまるのは、おかしいと思います。


 しんぶんを見て、みんな、ころされるのはいやだと言っていました。わたしもいやです。かぞくが幸せにくらせなくなるからです。だから、わたしはせいじかになりたいです。もしもせいじかになったら、人がころされない幸せな社会を作りたいです。



 
帰ってきた。ただちに理事長室へ顔を出さなければならない。だけどその前に昔の自分が書いた作文を読みたくなった。


 あの新聞記事が掲載された当時、私はまだ小学四年生だった。政治家になりたいとか、誰も殺されない社会を作るとか……。改めて読んでみると、あまりの虚しさにやり切れなくなる。だって、他でもない私自身がこの手で人を殺したのだから……。


 だけど、ある意味ではとても純粋であったのかもしれないと今では思う。周囲の雰囲気を肌で感じ、その異様さを子供なりの言葉で訴えたのだろう。


 「未然に抹殺する」という言葉を目にして、人々は恐怖で震えあがったという。そして、善人の仮面をかぶり、自分の感情を押し殺して、ターゲットにならないよう慎重に行動するようになったとも。


 果たしてそれが普通の人間社会だと言えるだろうか。道化師のように明るく振る舞う人、人、人。気持ち悪い。喜怒哀楽、三字経、ナヴァ・ラサ。当たり前に持っている感情に背いて生きるから、いつかどこかで爆発してしまう。それが人間……。


 「relief and rehabilitation facilities」――凶悪犯罪未遂者更生保護施設。通称セクションRR。セクションって「§」のこと? まるでSOS。皆、助けを求めてもがいていた。何もわからない状況の中で、自分なりの答えを見つけ出そうと懸命に模索していた。


 「real reality」――真の現実。あそこはこの世の中で唯一感情をさらけ出せる場所。こっちの方がずっとふさわしいネーミングだと私は思うけど。



「向井君、初めての任務、ご苦労だった。」

「滝沢理事長。ただ今戻りました。理事長室へ伺おうと思っていたところです。」

「そうだな、私の部屋で詳細を聞かせてもらいたい。」

「はい。お忙しい中わざわざ出向いていただき申し訳ありません。」

20.国家安全保障局 局長室前


「お戻りでしたか、副局長。」

「ええ、ついさっき到着したばかりよ。」

「お疲れ様です。」

「滝沢局長は?」

「ただ今、公務により外出中です。」

「公務? 何か伝言は?」

「承っております。こちらを。」

「封筒?」

「はい。本日は自宅に戻って構わないとのことです。」

「不思議ね。普段ならばすぐに私を呼び出すのに。」

「自宅に戻り次第、封を切って欲しいとのことです。」

「了解したと伝えておいて。」

「はい。そのように申し伝えます。」



 
やっぱり自宅が一番ね。ソファーでくつろぎながらワインを飲む時間は最高。面倒なことは全て忘れられる快適な空間。それに対して……。


 大嫌いよ、あんな場所。行かなくていいなら二度と行きたくないわ。まあ、あそこは元々そういう感情を植え付けて、同じ過ちを繰り返さないように教育し直す場所だけど。贖罪よ、贖罪。


 はぁ……。カメラでも取り付けて、遠隔的に監視することはできないのかしら。そうそう、封筒があったわね。今日の局長の行動は理解し兼ねるわ。だって、私の報告よりも優先すべき公用なんてあり得ないじゃない。で、私に何の用かしら?


 ……どうして? どうして急にそんなことになるの?! 確かに私はミスをした。監視役として宮崎カレンの死を防げなかった罰は覚悟してた。だけど、まだ何も話してないじゃない! 生体反応の消失のみで保護者の死を断定することはできないはず……。


 それなのに、どうして既に謹慎の命が下っているの?! 信じられない……。こんなの現実じゃない……。違う、違う、違う!! きっと何かの間違いよ!!


 私には仕事しかない……。何もかもを犠牲にして、ようやくここまでのぼりつめたのに、解任だなんてあんまりよ……。説明させて……お願いだから……。私を見捨てないで……。