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30.国立防衛学院 高等部 理事長室


「失礼します。」

「向井くん、待ってたよ。」

「遅くなって申し訳ありませんでした。」

「さっそくだが中の様子を話してもらえるかな。」

「はい。」

「木ノ下律子の様子はどうだった?」

「彼女は終始傍観的態度を取っていました。高みから見物するような視線で、保護者を更生に導くような行動は見られませんでした。」

「木ノ下もだいぶ変わってしまったということだな。」

「はい、恐らくですがそのように思います。プライドと上昇志向が強そうな彼女ですから、なかなか思い通りにいかないプロジェクトにうんざりしていたのでしょう。だから、保護者を更生に導くという本来の任務を忘れ、結果、一人の自殺者を出してしまった。罰を恐れたためか、彼女は蘇生措置も事後検証も行わず、立ち尽くしたままでした。」

「そうか。やはり監視を付けて正解だったな。木ノ下は聡明だが思慮深くはない。するするとのぼりつめた分、逆境にも弱い。そろそろ限界だと思っていたところだよ。」

「木ノ下さんはこれからどうなるのですか?」
「とりあえず、自宅で謹慎させている。秘書が私からの封筒を渡したはずだ。副局長解任を示唆した内容だ。」

「そうですか。」

「木ノ下に自覚がない以上やむを得ないことだ。それでは、保護者について聞かせてもらおうか。まずは岡田祐介について。彼が中に入った時、計器に例のない乱れがあったようだが。」

「計器に関してはわかりませんが、中ではごく普通に対応していました。異質な状況下であっても、自らそれを乗り切ろうとするタイプです。」
「岡田が中にいた時、計器は終始通常レベルを示していたんだよ。普通の保護者ならば少なからずストレスレベルが上昇するはずだが、これまでとは全く逆の反応だった。もしかしたら彼は保護者ではないんじゃないかと思ってね。こちらに戻したあと尋問させたんだよ。」

「それで、岡田さんはどうなったんですか?」

「逃げたよ。もちろん警備は総動員したが、あの広い局内であっさりと非常階段を見つけられた。今思えば岡田開発部長と接触したのかもしれない。息子が一人いるといっていたからな。もしかしたら……としか言えないが。」

「父親を探していたということですか? 彼は中で暇を見つけては砂漠を歩きまわっていました。皆、食料と水を探しているものだとばかり思っていましたが、それならば説明がつきます。憶測に過ぎませんが。」

「ああ、憶測に過ぎない。こればかりは本人に直接聞いてみないとわからないからな。岡田も現時点では一国民に過ぎん。用心に越したことはないが、生体反応が異常レベルを示さない限り、私生活に立ち入ることはできない。話を変えよう。萩原恭平について。」

「はい。彼は中に入った後すぐに順応できたわけではありませんが、食料と水の見つけ方がわかった時から笑顔を見せ始めました。記憶の混濁が落ち着いたのか、一瞬考え込むような影もありましたが、基本的にはとても楽しそうで、施設内での生活から何かを学び取った雰囲気が感じられました。家にこもるタイプの人間にとって、この方法は非常に効果的であると思います。」

「なるほど。気質や性格を考慮すべきだということか。」

「はい。宮崎カレンについても同様のことが言えると思います。彼女は慣れない土地で夫や娘のために……というよりは、自分の居場所を失わないように無我夢中で生きてきた人間です。幼いころに大きく環境が変わったことで、ストレス耐性もあまり高くありません。元から無理をしていた人間に重ねて無理をさせた結果、ストレスレベルが上昇したのではないですか?」

「ああ、その通りだ。宮崎に関しては未遂行動時よりも状態が悪かった。個別性を尊重した保護をできるといいが、それぞれの成育歴や生活状況までは事前に把握しきれない。難しいものだな……」

「そうですね……私がもっと早くに察していれば……」

「君に責任はないよ、向井くん。君の任務は第一に木ノ下律子の監視だったのだからね。こうして他の保護者の情報について聞かせてもらえること自体が大きな付加価値だ。」

「恐れ入ります。」

「それでは、話題を戻して岡崎貴之について。」

「はい。今回、4度目の実験は彼によって壊されたとも言えます。最初は木ノ下さんと同じように傍観的態度で、最低限の活動にしか参加しませんでした。しかし、萩原が無事に更生を終えた後、岡崎はその場にいた人間に錯覚を覚えさせるような一言をつぶやき、その結果として宮崎カレンの自殺を招いた可能性が高いと考えられます。ある程度ルールを知っている人間が混ざると、その言動から他の保護者の混乱を招くことが証明されました。」

「そうか。個別性と再犯未遂防止が当面の課題だな。ありがとう。結果の詳細はレポートにまとめて後日提出してくれ。」

「はい。……あっ、滝沢理事長。ひとつ質問してもよろしいですか?」

「ああ、構わんよ。」

「なぜ私をここに入学させたのですか? 本来ならば法的な罰を受けなければならなかったのに。今回のような重要任務に当たらせたことにも、何か特別な理由があるのですか?」

「そのことか。いずれは聞かれると思っていたよ。簡単に言えば、君に適性があると私が判断したからだ。」

「適正というのは?」

「それは――」

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