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29.都内 インターネットカフェ



 親父が姿を消した時、俺は18だった。高校3年の夏、甲子園の予選が終わって引退して、私立大学への入学が決まった矢先のことだった。学校から帰宅したら富田さんがソファーに座って待っていた。お袋の顔は青ざめて、不安をあらわにしていた。何かが起こったんだと直感した。


 
富田さんは一枚のメモを見せてくれた。「私は行きたくて行くんじゃない」と書かれたその字は、まぎれもなく親父のものだった。親父は研究者だったから一週間やそこら家に帰らないことなんて珍しくもなかったけれど、まさかこんな紙切れ1枚残して無断欠勤していたなんてな……。


 
お袋は警察に捜索願を出すことを提案したが、富田さんがそれを制した。その日の新聞記事を見て、国家の自殺防止プロジェクトや研究所のICチップが関わっているんじゃないかとにらんだから、捜索願を出しても無駄足に終わるだろうという見解だった。


 
その日から俺は親父を探し始めた。もう七年になるだろうか。親父が好きだった野球の審判をしながら、進路を変更してフリージャーナリストを目指した。親父の直接の上司だった丸山やNSAを片っ端から探って、この件の裏にある「黒い流れ」を自分の手で暴こうとした。


 
今、俺は数冊の冊子に目を通している。とても一日では読み切れない内容だが、凶悪犯罪圧殺プロジェクトの裏がある程度理解できた。あそこはセクションRRと呼ばれている。更生施設ではあるが未だ実験段階。計画書の通りなら、金髪のあいつは恐らく無事に普通の生活へ。NSAから派遣された監視者はあの年長の女だろうな。


 あの
予期せぬ自殺から一夜明けて、俺たちの目の前に再びライフルの男が現れた。ハンドガンで撃たれて目が覚めた後、俺は色々と尋問された。計器が異常な反応を示していたなんて知ったことじゃない。俺はただ親父を探しに行っただけで、更生施設内にいないことがわかった以上、あまり素性を知られたくはなかった。だから、調査官と自分の間にあった机を思いっきり蹴って腹にぶつけてやった。ヤツの動きが止まった間隙を衝いて、俺は部屋から飛び出した。


 
個室の外は予想以上に広く、けたたましい警報音が鳴り響いていた。一瞬焦って窓から飛び降りようかと思ったが、そこが何階かもわからない。とにかく走りに走った。が、警備員がわき出るように集まってくる。やむなく俺は手近な部屋に身を隠すことにした。


 
偶然だった。こんな奇跡が起こるなんて考えもしなかった。たくさんの機材に埋もれた人影が立ちあがってこっちを見た。親父……? 頬は痩せ、目の下は落ち窪んでどす黒く、とても年老いて見えた。だけど、俺は親父の面影を忘れていなかった。逃げようと言った。だけど、親父の足には鎖が。


 
親父は俺に冊子を渡し、ある方向を指さした。そっちへ逃げろってことか? 親父と一緒じゃなきゃ意味がない。何度もそう言った。けれど、親父は首を横に振り続けた。たくさんの足音が迫ってくる。時間がなかった。


 
俺が部屋を出ようとすると、親父は三本の指を立ててこっちに向けた。親指、人差し指、中指、頑張れのサイン。小さい頃、よく親父とキャッチボールをしたことを思い出した。どんなに下手糞でも、親父は笑いながらいつもそうやって励ましてくれた。がんばれ! 逃げるしかなかった。親父の指差した方向には非常階段があった。

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