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24.東京都内 職業安定所


 247番。電光掲示板におれの番号が表示された。この8年間、何度ここへ来ただろうか。あんなことをしでかしたのに出入り禁止になってないってことは……。おれたち世代は国から見捨てられたとばかり思っていたが、そうでもなかったってことだな……。


 こっちに戻ってきてから、自殺した女のことばかり思い出す。死んだら楽になれると思ったことは数知れない。だけど、思うことと実行することは別であって、結局何もできないままに生き延びてる。自殺する勇気とエネルギー……。ある意味では尊敬に値するものかもしれないな。


 思う……実行する……。おれは今まで何をしてきた? 職安では自分の希望を伝えた。職場ではやれと言われた仕事をやった。それ以上でも、それ以下でもない。それは実行なのか? 今朝のことが脳裏をよぎる。



「部長、ご無沙汰しております。その節は――」

「何しに来たんだ!」

「あの……。私はただ――」

「解雇された腹いせならさっさと出て行け!」

「ですから、私はただお詫びを――」

「あのままナイフが刺さっていたら死んでいたかもしれないんだぞ!」

「……申し訳ありませんでした。失礼致します。」



 
おれは謝罪すらまともにできなかったのか……。しっかりしろよ……。職がないと言われたら、どこでもいいからと泣きつく。解雇すると言われたら、抗わずに従う。怒りや悲しみがオーバーフローしたら、簡単に刃を向ける。何やってんだよ……。


 あの女が何をしたのかはわからないが、最後の最後に自分の人生をコントロールしたんだな……。おれはただ流されるだけだった。申し訳ない……。本当に……申し訳ない……。人生を変えてしまって……。不用意な一言で普通の生活に戻れるチャンスを不意にしてしまって……。最低だ……。


 「……あの、どうかしましたか?」


 えっ?! あぁ……ここは職安だったな……。どうしたらいいのか全くわからない。罪悪感と不甲斐なさで身の置き所が無い。


 「岡崎さんは以前にもここにいらっしゃいましたよね?」


 この担当者……何を考えている……?


 「私たちのことを信頼していない求職者の方がたくさんいらっしゃいますが、お悩みやご希望などを出来る限り正直にお話しになってください。」


 なぜだ……。


 「職業紹介や職業指導は政府の義務なんですよ。お話しいただければ、それに沿って最良のサポートに尽くしますので。」


 今がチャンスなのか? 自分で自分の人生をコントロールする。話すことが第一歩ならそれをやらなければまた同じ結果を繰り返す。だけど、怖い……。足が勝手に震えだす……。これまでの経緯を説明したらそれこそ……。


 ……いや、もうやめよう。おれは2度も間違いを犯したんだ。そして、3度目に他人の人生を大きく狂わせた。失うものなんてないのに、何を躊躇しているんだ。


……………………
…………………………
………………………………


 
長い長い時間が経過した。……と思ったが、時計の長針が一周もしていないことに気付いた。他人とまともに会話をしたのは久しぶりのことだった。


 
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ボランティアか。考えもしなかった。給料は安いが、今のおれにふさわしい仕事ではないかと勧められた。自分でもそう思う。償いになるなんて到底思っていないが、何かに導かれてなるようになった、そんな感覚を覚える自分が今ここにいる。

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