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4.宮崎カレン


【宮崎カレン】

 年齢24歳。イタリア・フィレンツェ出身、東京都在住。短期大学在学中に四歳年上の会社員と結婚。一児の母となる。夫婦仲は円満。主婦業にも近所づきあいにも積極的で明るい性格。


 怖い……。銃を持った男がずっとこっちを見てる……。目を閉じても、まぶたに焼き付いて離れない……。震えが止まらない……。神様……。家に帰りたい……。ここはどこなの……? どうして連れて来られたの……? きっと、家族が心配してる……。


 ここで暮らすためには、食料と水を手に入れなきゃいけないみたい。最低限って、どれくらいあるのかな……。1人分? 2人分? 私を入れて6人。もしも足りなかったら……奪い合うの……? まさか、ひとりが生き残るまで終わらないとか、そんなことないよね……? そんなことになったら、帰れる自信なんてない……。


 子供の頃は幸せだったな……。パパもママも優しくて、いつも私のことを守ってくれた。経済的には裕福ではなかったけれど、心の中はいつも穏やかだった。


 パパの仕事の都合で日本に来てから、少しずつ少しずつ、何かが狂い始めたような気がする……。機械的で温かみのない街が、ママの心の余裕を奪ったのかもしれない。子供だった私には何もわからなかった。慣れない土地で家庭を守ることが、どれだけ大変だったか……。


 大雨で増水した川がママを飲み込む光景を、今でもはっきり覚えてる。助けてって叫んだのに、誰も助けてくれなかった……。あれから何年経っただろう。突然消えてしまったママの帰りを待ち続けた私は、もうすぐあの時のママと同じ年になる。


 
大学を中退してまで結婚したのは、もう一度、温かい家庭で暮らしたかったからかな……。愛する夫と娘のいるマンションが、今の私にとって一番大切な居場所。絶対に失いたくない宝物。それなのに、私自身が消えてしまうなんて、戻ってこなかったママと同じじゃない……。ふたりに悲しい思いをさせたくない……。早く帰りたい……。


 息が詰まりそうだった日本の生活に慣れたみたいに、そのうちこのテントにも慣れるのかな……。シュラフなんて初めて使った。ベッドと違って寝苦しい。砂の感触が肌に伝わって、大きな波に揺られているみたい。


 他の2人はもう寝息を立ててる。何でもいいから話しをしたかった。孤独で涙が止まらない……。いつも前向きで明るかった自分はどこに行ってしまったんだろう……。母親になってから泣いたことなんて一度もなかったのに、私っていつからこんなに弱くなったのかな……。

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