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6.岡崎貴之


【岡崎貴之】

年齢30歳。都内の電子部品関連工場に勤める派遣労働者。有名私立大学を卒業後、出版会社に入社したが、倒産により失業。その後は職を転々とし、現在に至る。


 
朝が来た。新参者にとっては最初の朝か。さぞかし混乱することだろうな。もっともそれは、ここが以前と同じ場所であるという前提あっての話だが。


 風景はよく似ている。というか、ほとんど同じだと言っていい。しかし、随分と待遇が悪くなった。他の建物はどこに行った? 影も形もなくなって寂しい限りだ。ここに来たってことは、おれはまた何かやっちまったんだろうな……。


 なんて感傷に浸っている場合じゃない。以前と同じ目的が根底にあるのなら、あいつの言ったことは間違いなくはったりじゃない。自分で食を確保しなければ一生ここから出られないってことを、他のやつらはまだわかっていないだろう。


 あいつはただの案内人だ。おれたちをここへ運んで居住区へ誘導し、ルールを説明した後はすぐに消える。誰かがなんとかしてくれるだろうなんて考える愚図は、発狂して終わる。


 ここはそんなに甘い場所じゃない。ゴミ捨て場に捨てられたようなもんだ。


 さて、おれはどう出るべきか。全てを知っているわけではないが、おおよそのことは説明できる。だけど、見ず知らずのやつらを助ける義理はない。


 まずは自分がどうしたいのかだ。おれはここから出たいのか? 正直、外へ出ることができたとしても、生きた心地のしない生活が待っているだけ。考えたくはないが、もうすでに首になっている可能性すらある。またゼロからやり直しならば、いっそのことあのライフルで殺してもらった方が楽かもしれないな。


 努力しても報われない世の中だと言えば、その努力をしなければ報われることはないと返される。おれ以外にも大勢いるだろう。自分の描いていた未来が手に入らなかった人間が。要領のいい人間だけが得をする社会なんて糞喰らえだ。


 まあいい。簡単に答えの出せない問題に頭を使うのは、現時点では時間の無駄だ。他のやつらの行動を観察しながら、ゆっくり考えるとするか。

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